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スコットランド人が語った「人材は土壌」の意味

2002年07月25日(木)
萬晩報主宰 伴 武澄


 夏休みを利用してスコットランドから日本にやってきた年配の高校の先生と先日、懇談する機会があった。日本の東北の村に一週間ホームステイしていろいろ学んだ。

「初めての日本だったのですが、田舎を体験できてよかった。子どもたちもたった一週間で、涙、涙の別れでした」
「よい旅でしたね」
「ところでどうにも分からないことがいくつかあって、教えてもらえるかね」

 訪れた村の人口は3500人程度なのに村役場の職員が39人。村議会にいたっては議員が11人。どうやって彼らの給料を払っているのか。それから村ではいつも道路工事をしていた。大した工事でもないのに、7、8人も働いていた。何より驚いたのはほとんど交通量がない道でも必ず前後二人、交通整理員がいるというのだ。

 われわれが普段、なにげなく見過ごすごく普通の光景が奇異に映ったというのだから、返答に窮したのはいうまでもない。

 地方の公共事業は90年代のピーク時から三割程度は減少しているはずだから、スコットランドからの客人がそのころ、日本にやってきていたらさぞ腰を抜かしたに違いない。

 いつの間にか、筆者は日本が人口過剰で仕事を分け合う「ワークシェアリング」をむかしからやってきたことや日本の公共事業が持つ失業対策的意味合いを口にしていた。はずかしいことにまるでお役人的「答弁」である。

 23日に仕事をしていたら、「大ロンドン市庁舎が完成、新名所に」という短い記事が入電してきた。読んでみてこの客人のことを思い出した次第である。

 ロンドンの新市庁舎は10階建て、総工費4300万ポンド(79億円)だという。79億円といえば日本では小さな町役場の新庁舎のお値段である。もっと驚いたのは記事には「440人の役人が入居する」とあったことである。もちろんほかにも庁舎があるのだろう。これだけの人数で大ロンドンの行政を賄えるはずもない。

 だが、なるほどイギリスの自治体の行政規模というものがなんとなく分かり、かの客人が日本の行政の姿に疑念を持つ理由もさもありなんというところである。

 考えてみれば、ヨーロッパではむかしから失業率10%が当たり前の社会だった。5%台に乗せたといって大騒ぎしている東洋の島国とは違う。それでも不思議なことに暴動も起こらず、なんとか社会が維持されてきた歴史がある。スコットランドというところは地味が痩せている上、イギリスの中でもさらに仕事のない地方として有名であった。人材を育てても働く場所がないことが彼らの積年の悩みだった。

 そのスコットランドはいまや、隣国のアイルランドと並んで経済的活況を謳歌している。スコットランド開発庁の日本事務所の人にその当たりの事情を聞いたことがある。

 20年来、彼らは地道に海外企業の誘致に努めてきただけなのである。一国二制度で税制の恩典があるわけではない。ただ人材の育成だけは手を抜いたことがなかったようである。なにやら明治の日本のようでもあった。

 翻って日本の地方はどうなのであろうか。「国際」と名の付く怪しげな学校や機関、行政の部署は数多くある。大枚を払って東京の有名人を呼んでシンポジウムを開く。それだけで終わってはいないだろうか。議員や社長たちの海外研修はほとんどが物見遊山である。

 自らアメリカ、ヨーロッパ、アジアに出向いて継続的な人脈づくりをしてきたのだろうか。そんなことができる人材を県内に育成してきた経験があるとでもいうのだろうか。

 かの高校の先生は味なことをいっていた。

「日本の農村で感じたのは土が肥えていることだ。ご存知のようにスコットランドは土が実に貧しい。人材というのは農業でいうところの土と一緒です。土が貧しければ何も育たないのです」

 スコットランドの高校の先生との会話から多くのことを考えさせられた。

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