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これからの世界観−日本の柔軟性に期待

2002年05月12日(日)
コーエイ総合研究所主任研究員 中野有

 予測は往々にしてはずれるものであるが、これからの世界はどのように変化するのだろうかと長期的なトレンドを考えることもたまには大切である。国際情勢を読み取るにあたり、どんな本にも載っていなく、かつ考えてもいなかった「世界観」に接した時の感動は大きい。柔軟な発想は、旅を通じ生み出される。「世界方程式」を創られた福地崇生先生(京都大学経済研究所、元所長)と、2週間のドイツの旅をされた次の日に会った。のんびりドイツの田園風景を見ながら、汽車の中で考察された「世界観」にはスケールの大きい新鮮な発想が感ぜられた。

 冷戦が終わり、イデオロギーの対立から宗教や民族に関連した「文明の衝突」が顕著に現われ予測できない突発性の出来事が発生するのが現代の世相である。ユダヤとアラブの根深い対立等、その解決策は存在しているのであろうか。そのヒントとして福地先生は、世界には4つのパターンを持つ国家群が存在すると指摘される。1つは、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教等の一神教を信仰する国。2つ目は、インドに見られるような混沌とした掴み所のない宗教を持つ国。3つ目は中国のような基本的には、宗教を持たない国。そして4つ目は、日本の仏教と神道等いくつかの宗教を同時にを持つ国。概して、これら4つのパターンで世界観が展望できる。

 なぜ、中東の問題は解決できないのか。この答えは一神教が持つマイナス面にあり、イスラエル、アラブの問題にアメリカが関与しても一神教故に最後の一線でどうしても妥協できないことが生ずる所以だと分析できる。また一神教である欧米、アラブ諸国が、インド、中国、日本を本質的に理解するのは、困難であるということが考えられる。

 人口の観点から洞察すると「世界のへそ」は中国とインドにあり、この2大国が21世紀の成長の原動力となるだろう。IT分野でインド、中国の優秀な人材が活躍していることからも、中国とインドといかに関わっていくかによって、その国の命運も変わっていくと考えられる。欧米中心でない新たな勢力がアジアに生まれつつあるのである。欧米の一神教の国々にとっては、混沌とした宗教を持つインドと、宗教では計れない価値観を持つ中国を理解することは容易ではない。一方、宗教に対し、世界で最も柔軟な対応が可能である日本は、中国やインドとの交流を比較的進めやすいと考えられる。従って、日本が今後、今まで以上に中国とインドとの交流を重要視することにより、日本の新たなる発展を導き出すことが可能となるのではないだろうか。

 先進国は、キリスト教を中心とした一神教で構成されており、また世界の基軸通貨であるドルやユーロもキリスト教が中心である。しかし、中長期的に中国やインドが豊かになることにより、一神教支配が変化してくると考えられる。一神教も理解し、他の宗教や宗教という枠に納まりきれない国々の動向を把握するという柔軟性を有した国が有利になってくると考えられる。

 そこで日本という国は、4つのパターンからすると世界でも希なる柔軟な吸収力を備えた国といえる。西洋・東洋の思想をも吸収する柔軟性と包容力を持った日本は世界の潮流に対応するに相応しい国といえる。こんな「世界観」を持つと同時に日本の本質を見抜くことにより「世界の中の日本」という新たな発想が芽生えてくるのではないだろうか。

 mailto:nakano@csr.gr.jp


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