「この人がいなかったら、あなたの存在はないのよ」
こんなことを言われて悪い気はしない。
ストックホルムで開催された会議に出席したついでに、数年前に連絡が途絶えたスウェーデンの友人に会おうと思い、ホテルのフロントで番号案内を通じ友人の電話番号を調べてもらった。友人の名前は人気があるのかありふれた名前なのか、そう人口の多くないスウェーデンに同姓同名が10人以上あった。友人に会いたくなれば会いたくなるもので、片っ端から電話をかけてみた。日本でも知らない人と電話でしゃべるのがたやすくないから、それはもう大変。また、イースターホリデーが始まる時で、友人と遭遇する確率は低いだろうと思いながら懲りずに電話をかけていると8年ぶりになつかしい声にたどりついた。
わくわくしないはずはない。このスウェーデンの友人とは、ウイーンの国連機関で勤務したときの同僚であり、テニスの対戦相手そしてパートナーである。ある晴れた春の日、ぼくは国連機関に勤務する英仏のハーフの魅力的な女性とドナウ河のほとりのレストランでランチをとっていた。そこにスウェーデンの友人が偶然二人で楽しんでいるランチに出くわした。長身でブロンドの典型的なハンサムなスウェーデン人と魅力的な女性はその場で意気投合しぼくの存在が完全に忘れ去られるほど「はじめて会ったその日から恋の花咲くこともある」とはこのことのように、その後二人は結婚したのである。勿論、ひょんなことから愛のキューピットか仲人は、このぼくとなってしまった。
彼等もぼくも放浪癖があるらしく何回か生活の拠点を変更したため次第にクリスマスカードのやりとりもなくなり、気にはかけていたが連絡が途絶えた。ストーリーがあるだけに苦労して電話で調べ、再会したときの喜びは相当なものであった。人生の楽しみは世界中に友人の輪を広げることであると思っていたが今回友人と会った時、まさにそうだと思った。彼等には8歳と5歳の愛くるしい女の子と男の子がいる。「How do you do?」と話しかけたところ、ママからすでにこの奇妙な日本人の存在を聞いていたらしく、にっこり笑みを浮かべてくれた。
日本の枠を超え世界に羽ばたきたいと思ったのは世界に友人の輪を広げ、最も相応しいパートナーを探そうというそんな単純な想いからであった。中近東、オーストラリア、南アフリカ、リベリア、オーストリア、新潟、アメリカ、鳥取、東京で生活してきて、その土地土地で素晴らしい友人と巡り会った。いつでも友人達の笑顔が思い出される。アフリカ人もヨーロッパ人もローカルな環境で一緒に生活することで親しみが感ぜられる。人類は国籍を超え友人になれば互いに多様性を認め合いながらも通じるものがあると思う。平和や共生という感覚は、友人を通じて養われると感じる。
ローカルで養ったワールドワイドな友人の輪を広げることは人生の楽しみである。友人と友人を結びつける。これもまた楽しい。先進国では人口が減少し、数年前に予測された今世紀末の人口100億が90億に修正されたとの報道があった。人口が爆発するのは好ましくないが、友人から「この人がいなかったらあなたの存在はないのよ」と紹介される。これもまた国際貢献の一環なのであろうか。
世界を飛び回りそこで生活し、ローカルで気心の通った交流を通じ友人の輪を広げていく。そしてそれがワールドワイドネットワークとなっていく。いつの日か友人と相互に一定期間、家を交換することによってお金をかけずに世界を旅することができる。そう考えると老後もまた楽しそうである。
中野さんにメールは mailto:nakano@csr.gr.jp