アラスカで開催された国際会議に出席し、北東アジアについての思いを語る機会に恵まれた。そこで、ブッシュ大統領が一般教書演説で語った「悪の枢軸」に対抗し、「平和の枢軸」についてのスピーチを行なった。
9.11の悲劇を2度と繰り返さないためにも、また国際テロの根源を挫くためにも、悪の枢軸である国際テロと関連がある国々に対し、強硬姿勢を示すことも大事であるだろう。9.11の同時多発テロをきっかけにアフガン戦争が発生した。21世紀型の戦争は、国家間の大規模戦争でなくテロをきっかけとした途上国を巻き込んだ戦争であり、最悪の場合、民族、宗教と普遍的に広がる無気味な戦争であると考えられる。悪があれば正義がある。その正義の役割を果たすのがアメリカであろうか。アメリカは、軍事力により悪の退治を目指している。もちろん、悪と戦うためには軍事力が不可欠である。しかし、テロを根絶するためには軍事力プラスアルファーの正義がなければいけない。
世界第一と第二の経済大国であるアメリカと日本が、日米同盟を基盤として21世紀型の戦争に対処するため、どのような日米の役割分担が考えられるのであろうか。その答えを導くにあたり、ブッシュ大統領の日韓中の3カ国訪問が参考になる。東京で「悪の枢軸」の支持を取りつけたブッシュ大統領は、ソウルでは金大中大統領の「太陽政策」の支持を表明した。また、北京では江沢民国家主席に、北朝鮮の金正日国防委員長との会談の調整を依頼したと言われている。このように、ブッシュ大統領は北朝鮮に対し「悪の枢軸」の一環として強硬な軍事的なスタンスを示すと同時に融和政策をも表している。そこには、大いなる矛盾があるようだが、「飴と鞭」の幅を利かせた、軍事政策と融和政策の両端を組み合わせたと考えれば、アメリカの北朝鮮政策が見えてくる。
日米同盟に関し、周辺諸国は恐らく日本が考えている以上に、日本が再び軍備増強に走らないための必要条件として米軍の駐留を認めている。日本は米軍に相当な資金を提供し、平和の維持という「酸素」の提供を受けている。日本が米軍をサポートすることは、日米同盟の維持のためにも重要である。加えて日本が、ブッシュ政権の対北朝鮮政策に見られる「飴」の部分を積極的に推進することは、軍事的関与でなく経済協力というソフトの分野で朝鮮半島の安定に貢献できるという意味で重要である。日本は大陸に進出し、戦争を導きそして敗戦と被爆という人類史上稀なる大きな犠牲を被った。犠牲の上に平和を追求する国家が成立したのである。このような20世紀の日本の大陸への関与を鑑みると、日本は北東アジアの安定と発展のために、現在の優柔不断な態度でなく、更なる建設的な関与が不可欠である。
ブッシュ政権が「悪の枢軸」という北朝鮮へのテロ撲滅の作戦により、北朝鮮の選択のオプションが狭められてきており、その結果として北東アジアの地政学的変化が現れようとしている。そこで、日本はこのタイミングを生かし、旧満州地域を含む歴史的清算を行うためにも北東アジアに夢のある開発の「グランドデザイン」を描写し、アメリカが手の届かない北東アジアの開発に協力することが重要であると考える。日本の役割は、北東アジアの多様性を認め、北東アジアの市民が共に北東アジアの発展を享受できる共生圏を構築することにある。
そのような活動こそが「平和の枢軸」となるのではないだろうか。日米の2国間の関係がしっかりしているから日本は、テロの根絶に役立つだろう貧富の格差の縮小等を目的とした経済協力の活動に集中できるのであろう。悪と正義のバランスをとるために「平和の枢軸」の一翼を担う活動を推進すべきであろう。アメリカが「鷹」なら、日本は平和を導く「白い鳩」である。「平和の枢軸」を提唱することにより、日米の役割分担が明確になるのみならず、21世紀型の戦争を未然に防ぐ市民が参加できる活動に発展していくのではないだろうか。
中野さんにメールは nakano@csr.gr.jp
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