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ビッグ・リンカー達の宴(うたげ)−7
2001年12月27日(木)
萬晩報通信員 園田 義明

 ■アメリカ・ブロードバンド戦争

 今回の同時多発テロを契機に日本でも軍備拡充か縮小かの議論が巻き起こっている。議論の重要性は認めるものの、この種の議論を好む方に共通するのは時代認識の欠如である。急速に時代が変化する中で、安全保障上における情報通信分野での覇権確立が最もホットなテーマとなっている。もとはと言えば、湾岸危機における日本批判のトラウマも情報発信能力に致命的な問題があったためである。この主戦場の最新動向を見ていきたい。ここでも日本勢の姿は全く見えないことを最初にお知らせしておく。

 これまで見てきたとおりラザード・グループは、一貫して民主党クリントン政権を支持し、資金的な援助も行ってきた。昨年ラザードを去った元上級経営幹部スティーブン・ラトナーも民主党ゴア候補の財政アドバイザーを務め、ゴア政権が誕生していれば財務長官就任も噂された人物である。

 ラトナーは、1989年にモルガン・スタンレーからラザード・フレールに転身し、メディア&コミュニケーショングループを設立、以後ベルテルスマン(ドイツ)、ニューヨークタイムス、パラマウント、AOL、タイム・ワーナーなど大手メディア企業を相手に実績を残してきた。そしてそのひとつが、コムキャストである。

 今年1月10日、コムキャストはパリから戻ったばかりのフェリックス・ロハティンの社外取締役就任を発表する。これは、明らかにM&A戦略強化のためである。

 1999年3月、コムキャストは、486.3億ドルで業界4位のメディアワンを買収すると発表する。ところが、これに待ったをかけたのがアメリカ最大の総合通信事業者AT&Tであった。「総合サービス・プロバイダー」をめざすAT&Tは、企業規模にモノを言わせて540億ドルを提示し、買収合戦が繰り広げられるが、最終的にコムキャストは敗北することになる。

 CATVはAT&Tが独占するのではとの観測が流れたが、今年に入って形勢が逆転する。AT&Tはマイケル・アームストロング会長が就任した1997年以後、CATVの拡大路線をひた走り、惜しげもなく買収に費やした金額は1000億ドルを超える。しかし、巨費を投じて手にした回線の多くは老朽化が進み新たな投資が必要だった。加入世帯数1500万、シェア22%の巨大勢力は規模の利益を出す前に債務が膨張し、株価低迷と過剰負債に苦しみ、CATV事業の事業分離を決断せざるをえない状況に追い込まれる。

 ここで再度登場するところが、フェリックス・ロハティンらしい。

 今年7月、コムキャストは、AT&TのCATV事業を総額580億ドル(負債引き継ぎを含む)で買い取るという買収提案を行う。AT&Tがこれまでに投じた金額のほぼ半額の買収提案額に対してAT&T側は「安すぎる」といったんは拒否する。

 ここから巨大オークション状態に突入する。AT&Tのアームストロング会長の威信をかけた価格つり上げ交渉の開始である。この買収に第4位のコックス・コミュニケーションズとCATV事業でも2位につけるAOL・タイムワーナーも名乗りをあげ、さらにはAOL・タイムワーナーの独占許さずとマイクロソフトも参戦する異常な事態となる。

 AOL・タイムワーナーの買収が実現すればCATVで40%を握ることになる。AOLはすでにインターネット接続でほぼ独り勝ちをおさめ、豊富なコンテンツを持っている。さらに一般家庭につながる情報インフラまで握ってしまえば、一大メディア帝国誕生となる。

 マイクロソフトも家庭分野に対して並々ならぬ情熱を注いでおり、ゲーム機に参入したのも家庭との太いパイプの確保をめざしたものだ。しかし、自社でCATVを運営するノウハウに乏しいため、コムキャストかコックスのいずれかが買収を決めた場合、マイクロソフトも30〜50億ドルを出資し、共同買収の形にする戦略に出る。すでにマイクロソフトは、コムキャストに10億ドル、AT&Tに50億ドルの出資して大株主となっており、コムキャスト優勢のまま現在もその攻防が行われている。

 12月7日付けの日経産業新聞は、この買収劇を「マイクロソフト」対「AOL・タイムワーナー」の代理戦争と書いていたが、ビベンディ・ユニバーサルの存在を忘れているようだ。

   ■ブロードバンド戦争とFCCとパウエル親子

 このAT&TのCATV事業売却をめぐり、米メディアも報じない側面を紹介しよう。

 1934年の連邦通信法によって設立され、ラジオ、テレビ、通信、衛星、ケーブルテレビを用いた州及び国際間の相互的なコミュニケーションを管轄しているのが、FCC(連邦通信委員会)であり、直接議会に対して責任を持つ政府から独立した連邦機関となっている。

 今回の買収劇には、このFCCが大きく関係している。これまで1社が所有する放送局の放送到達範囲は全視聴世帯の35%以内としてきたが、今年3月に下された「CATV事業者の所有規制は言論の自由に反する」という違憲判決により、この上限を引き上げようとする動きも出ている。

 ブッシュ政権誕生後、通信分野でも相次いで規制緩和策が打ち出されており、こうした動向が今回の買収劇を加速させる結果となっている。

 ブッシュ政権が任命したFCCの委員長はマイケル・パウエルである。AOLの取締役であったパウエル国務長官の息子である。AOLもブッシュ大統領に対して巨額の献金を行ってきた。このためこの買収劇もAOL・タイムワーナーが巻き返してくる可能性を指摘するメディアもある。ところがこのマイケル・パウエルは、父親同様不思議な存在である。

 マイケル・パウエルは、確かに共和党支持者であるが、FCCの議長に任命されたのはクリントン政権時であり、民主党とも深いおつき合いがあるようだ。出身はオメルベニー&マイヤーズ法律事務所のワシントンオフィスである。

 ブッシュ・ゴア天下分け目の決戦となったフロリダ州開票作業。ブッシュ陣営を率いたカーライル・グループの上級顧問ジェームス・べーカー(財務長官、国務長官を歴任)もベーカー・ボッツ法律事務所のシニア・パートナーである。

 対するゴア陣営を率いたのが、ウォーレン・クリストファーであった。ウォーレン・クリストファーは、クリントン政権の国務長官(1993〜97)であり、マイケル・パウエルが在籍したオメルヴニー&マイヤーズ法律事務所のシニア・パートナーである。共に国務長官を経験した弁護士の一騎打ちとなっていたのである。

 オメルベニー&マイヤーズ法律事務所の拠点はロサンゼルスにあり、もうひとりのシニア・パートナー、ウィリアム・コールマン元運輸長官(フォード政権−1975〜77)もゴア候補を支持した。

 ウォーレン・クリストファーは、かってはロッキードの取締役を務め、一方ウィリアム・コールマンは、チェース・マンハッタン・バンクの取締役を務めていた。そしてふたりともパン・アメリカン航空(パンナム−1991年操業停止)の取締役であった。従ってロハティンとは長いつき合いのようだ。

 そしてもうひとりこの買収劇の鍵を握る人物がいる。

 ★メモ−−「日本版FCC」について

 政府のIT戦略本部(本部長・小泉純一郎首相)は12月6日の会合で、FCC(連邦通信委員会)のような独立競争監視機関の設置の検討も含めた改革案の議論を行う。どうやら情報通信分野の規制・監督機能強化を行いたいようだが、これは全く時代に逆行するものである。

 園田さんにメールは mailto:yoshigarden@mx4.ttcn.ne.jp


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