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ビッグ・リンカー達の宴(うたげ)−3
2001年11月25日(日)
萬晩報通信員 園田 義明

 ■動き始めたジョージ・ソロス

 10月31日、ジョージ・ソロス氏率いるソロス・ファンド・マネジメント は、新たなCEOにウィリアム・スタック氏(54)が就任したと発表する。 スタック氏は、ドイツの銀行大手ドレスナー銀行傘下の運用会社ドレスナーR CMグローバルインベスターズ最高投資責任者だった人物である。

 ソロス氏は、ヘッジファンドの第一線から退くのではないかとみられていた が、体制を整えて再び積極的な投資活動を再開する可能性が高い。

 9月11日以降、外為市場では米国による軍事行動や報復テロなどの行方が 読みづらいことから、銀行などの主要市場参加者が活発な取引に動けない状況 が続いており、この人事によってソロス氏が債券・為替投資型の新たなファン ドを準備するのではないかと予測される。

 最近、ソロス氏とアメリカ政府との密接な関係が目立っている。昨年7月に クリントン政権の政府ミッションとして、ニュービジネスの開拓、拡大、再建 を目的にサウスイースト・ヨーロッパ・エクイティ・ファンドが開始される。 このファンドの運用には、国家安全保障担当顧問を務めたサミュエル・バーガ ー氏とオーバーシーズ・プライベイト・インベストメント(OPIC)社長兼 CEOジョージ・ムノーズ氏と並んでソロス氏率いるソロス・プライベイト・ ファンド・マネジメント (SPFM)が選ばれた。

 サミュエル・バーガー氏は、ヘンリー・キッシンジャー氏も認めるアメリカ で最も影響力のある国際戦略のエキスパートとして、ストーンブリッジ・イン ターナショナルの会長とリーマン・ブラザーズの上級顧問を務めている。

 ブッシュ政権も今年3月にアメリカ合衆国国際開発局(USAID)とオー プン・ソサエティー研究所(別名「ソロス財団」)が共同で設立しているバル チック・アメリカン・パートナーシップ・ファンド(BAPF)の積極的な支 援を打ち出している。

 ■オープン・ソサエティー研究所(別名「ソロス財団」)

 1930年、ハンガリーのブダペスト生まれたソロス氏は、ロンドン・スク ール・オブ・エコノミクス(LSE)在学中に出会った哲学者カール・ポパー の著書に親しみ、その後の思想形成と慈善事業活動に影響を与えた。

 ソロス氏は、1979年に最初の取り組みとしてオープン・ソサエティー・ ファンドを立ち上げる。1984年にはハンガリーでイースタン・ヨーロピア ン財団を設立。その活動範囲は中欧、東欧、旧ソ連の全域から現在では南アフ リカ、ハイチ、グァテマラ、モンゴル、アメリカなども加えて計31カ国に拡 大していく。

 この活動の中枢機能として1993年に設立されたのがオープン・ソサエテ ィー研究所である。ニューヨークを本部にブリュッセル、ブダペスト、パリ、 ワシントンに事務所を置き、50カ国以上にまたがるネットワークのセンター として教育、メディア、ジェンダー、経済問題等のプログラムを作成している。 なお2000年度の総支出額は約5億ドルである。

 ソロス氏は長年麻薬合法化に向けてなにやら一生懸命なのである。ニューヨ ークを中心に莫大な資金を投入して、メディアを巻き込んだキャンペーンを実 施してきた。そしてようやくパタキ・ニューヨーク州知事及び州議会のリーダ ーらは、今年になって麻薬法を見直すことに合意する。現在の麻薬法は、19 73年に当時のネルソン・A・ロックフェラー知事が作ったものでロックフェ ラー・ドラッグ法と呼ばれている。まだ第一歩に過ぎず、「開かれ過ぎ」との 批判も多く、果たして実現できるかどうかは疑わしい。

 なおロックフェラーと言えば、前述のバルチック・アメリカン・パートナー シップ・ファンド(BAPF)の役員会会長は、ロックフェラー・ブラザーズ ・ファンドのウィリアム・ムーディー氏が務めている。

 また1995年のボローニャ大学の同大学最高栄誉賞である「ラウレア・オ ノリス・カウサ」に続いて、1999年には日本でも人気の高い20世紀を代 表する政治思想家ハンナ・アレント(Hannah Arendt、1906−1976) の名にちなんだハンナ・アレント賞を授けられた。この選定委員には、今年退 任したロックフェラー・ブラザーズ・ファンドの前議長コリン・キャンベル氏 も含まれている。

 ロスチャイルドと並ぶ世界的な二大企業グループの間で巧みに泳ぎ回る術は、 今でも衰えてはいないようだ。

 しかし、訴訟から逃れる術はまだ身につけていない。昨年末もパリ予審判事 が、ソロス氏、ナウリ元仏大蔵省官房長など4人をインサイダー取引の疑いで パリの裁判所に起訴した。これは、仏政府が1988年にソシエテ・ジェネラ ル株を政府系機関を通じて買い支えた際に、ソロス氏らが事前に情報を得て不 正な利益を得たとの疑惑である。

 常に彼のまわりにつきまとう疑惑には、カール・ポッパーが生きていればさ ぞかし困惑しただろう。

 ■ソロス氏とペルー、中国、日本、そしてカスピ海

 フジモリ政権の崩壊以来、政治混乱が続いていたペルーでは、今年7月、先 住民系のトレド大統領(55)率いる新政権が発足した。選挙ではユダヤ系で あるソロス氏がトレド陣営に多額の献金をしていたようだ。その結果、第二副 大統領でもあるバイスマン国防相、クチンスキ経済財政相など多くのユダヤ人 脈を政権に送り込むことに成功する。

 今年10月には、中国で大学を設立する準備に取りかかると発表する。すで に教育ベンチャー事業の一環として、ソロス氏は、セントラル・ヨーロピアン ・ユニバーシティーを設立しており、実現すればその第二弾となる。WTO加 盟で世界中の大物が連日のように中国に押し寄せる中、得意の投資戦略で挑む ようだ。

 さてあまり話題にはならないが、日本にもすでに上陸している。ソロス・リ アル・エステート・インベスターズは、投資対象をホテルに絞り込み、米ホテ ル運営大手のウエストモント・ホスピタリティ・グループと組んで、京都ロイ ヤルホテルとリーガロイヤルホテル成田を取得した。

 なおソロス財団の支出先として、ロシア5657万ドルも含めて、カスピ海 沿岸地域への積極性が読みとれる。(グルジア537万ドル、カザフスタン4 90万ドル、ウズベキスタン412万ドル、アゼルバイジャン325万ドル、 アルメニア191万ドル等)カスピ海地域の石油、天然ガス資源をめぐる「ニ ュー・グレート・ゲーム」の陰のプレイヤーであろう。

 ■ソロス氏の後継者達

 11月15日保険・再保険業務などを中心とする金融会社XLキャピタルは、 フロントポイント・パートナーズに5億ドルの投資を行うことを発表する。こ のフロントポイント・パートナーズは、ソロス・ファンド・マネジメントやジ ュリアン・ロバートソン氏が率いたタイガー・マネジメント、モルガン・スタ ンレー等の出身者が集まるヘッジファンドの最強軍団でもある。

 このXLキャピタル自体もバンカーズ・トラスト、J・P・モルガン、マー シュ&マクレナン、マッキンゼー、ベクテル、ロックフェラー保険等の出身者 で固められた超エリート集団が率いている。そして本拠地をバミューダに置く オフショアカンパニーである。

 ところで、10月に入って米証券取引委員会(SEC)は、証券ブローカー らに対して同時多発テロ直前に不審な取引が行われていた兆候があるかどうか 38銘柄について取引記録を調査するよう要請しているが、その38銘柄の中 にXLキャピタルの名前もある。

 しかし真相は決して公表されないだろう。なぜならソロス氏がパートナーを 務めるカーライル・グループにはSEC前委員長のアーサー・レビット氏が今 年5月1日付けで上級顧問に就任しているのである。なおレビット氏は過去最 長の7年半にわたってSEC委員長を務めた人物である。

 なおアーサー・レビット氏は、カーライル・グループの上級顧問に就任する 2ヶ月前の今年3月には、金融・経済情報メディアとして知られるブルームバ ーグの取締役にも就任している。そして、このブルームバーグを一代で築き上 げたマイケル・ブルームバーグ氏が、今月11月に行われた市長選に勝利し、 ジュリアーニ現市長(共和党)の後任として、来年1月から同時多発テロで大 打撃を受けたニューヨークの復興に向けかじ取り役を担うことになる。

 「ヘッジファンド」(浜田和幸著 文春新書)によれば、ソロス氏の口癖は、 「エリザベス女王陛下の資産運用をお手伝いしている」ということらしい。こ の言葉には憧れにも似た彼の本音があるようだ。悲しいことに、この世界には ビッグ・リンカーはいない。(つづく)

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