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インドで再び熱く語られるボース
2001年08月27日(月)
萬晩報主宰 伴 武澄

 チャンドラ・ボースの56回目の慰霊祭が8月18日、東京都杉並区の蓮光寺で行われた。今年は参拝者が例年になく多かった。特にインド人が多かった。理由はよく分からないが、若い女性ジャーナリストと京大のインド人留学生と親しくなった。

 このインド人青年は「本業は漁業だが、ボースの遺骨返還が来日の一番の目的だ」と言った。またこのジャーナリストによると、インドではボースの死をめぐる第3回目の政府調査団が結成され、ロンドンを皮切りに改めて調査が始まるのだとという。

 多くの日本人はボースは終戦の3日後、台北市の空港で航空機事故のために死去したものだと信じている。しかしインドでは死後55年を経た今でもボースの死は確定した史実ではない。

 インドの有力紙であるヒンドゥスタンタイムズ紙は、インターネット上で「チャンドラ・ボースの謎」(The enigma of Subhas Chandra bose)と題したボースの大特集を展開。この中でボースの死について読者から幅広く意見を募集し、驚いたことに「今の時点でボースが台北の航空機事故で死去したと判断するのは正しいことではない」と結論付けた。

 ボースは1897年1月23日ベンガルに生まれたから、生きていれば104歳ということになる。この特集ではボースの生い立ちからインド国民会議派時代、欧州亡命時代、インド国民軍を率いて日本軍とビルマ国境で戦った時代をそれぞれ克明に解説している。

 しかしその死については「日本は航空機事故で嘘をついたのか」「英国では1946年になってもボースは死んでいなかった」「CIAが64年までボースの跡を追った」「スターリンの庇護下にあったボース」など反論すべきレポートも数多く掲載。日本では知られていない8月18日以降のボースの「消息」についても詳しく伝えている。

 インドでのボース熱は完全に冷めてしまっているのかと思っていた筆者にとって、インドの有力紙がここまでボース熱を復活させる意図は何なのか興味があるところである。

 ●インド栄光の象徴と命名されたボースの軍刀

 ボース慰霊祭の後、帰宅してからいつもの年のようにボース関連の書籍を読み返した。インド国民軍の創設者の一人である故藤原岩一氏が最後にまとめた「留魂録」(1986年、振学出版)という分厚い回顧録を拾い読みしながら、「ボースの軍刀返還物語」という興味ある文章に突き当たった。この物語を要約ししながら今年もボースを回顧したい。

 ボースの遺刀が東京銀座の東洋美術館社に持ち込まれたのは、死後22年も経った1966年の秋だった。持ち込まれた経緯については一切触れていないが、この軍刀はボースがインド国民軍の総帥に推され、自由インド仮政府の主席に就任、米英に対して宣戦布告をしたことに感動した福岡市の刀匠磯野七平氏がインド独立を祈念してしつらえたものだった。

 ボースの遺品の出現を知った当時の駐日インド大使は喜び早速本国に照会し、ガンジー首相は直ちにインド政府としてカルカッタのネタージ記念館へ永久保存することを決めた。翌67年2月17日、駐日インド大使館で行われた軍刀返還式はマスコミを通じてインドはもとよりマレーシアなど東南アジアでも大々的に報道されたという。

 ネタージ記念館への奉納式典は3月19日に行われたが、式典に日本を代表して参加した藤原岩一氏は国賓待遇でカルカッタに迎えられた。会場にはベンガル州総督以下千数百人が埋め尽くし、ナイデュ総督は「日本がインド独立獲得の闘争過程において与えてくれた偉大なる貢献と賜物に対するわれわれの深甚なる感謝を日本国民に伝えてほしい」と挨拶。周辺の道路やビル屋上には一般市民が溢れ、「ジンダバー、ネタージ」(ネタージ万歳)を絶叫したという。

 この軍刀ははさらにその年の12月17日、デリーで大統領、ガンジー首相以下インド政府の全閣僚、全国会議員に迎えられ、ボースが「チェロ・デリー」の雄叫びとともにインド解放の最終目標としたレッド・フォートに入城し、ボースに代わって最高の栄誉を勝ち取った。ボースの軍刀はこの日「インド栄光の象徴」と命名され、「日印友好の象徴」としてネタージ記念館にいまも保存される。

 いまもなおインドを熱狂させるボースの存在について改めて考えさせられる日々だ。

 HindustanTimesのThe enigma of Subhas Chandra Base
 http://www.hindustantimes.com/nonfram/netaji/netaji.asp

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