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グランドデザインが求められる北東アジア
2001年06月20日(水)
東西センター北東アジア経済フォーラム上級研究員 中野 有

 田中外相はブッシュ政権が推進するミサイル防衛構想に疑念を抱いている。しかし、田中外務大臣とパウエル国務長官との話し合いで、日米同盟が平和のためのコーナーストーンである故にミサイル防衛構想に米国と協調するとの姿勢を明確にした。

 核や攻撃用兵器の削減のためにミサイル防衛を推進するという米国の主張も納得できる。矛と楯の関係の議論の中で、EUをはじめ中国、ロシア等がミサイル防衛構想に反対している。世界の潮流と同じ論点で、田中外相がミサイル防衛に疑念を持っていることも理解できる。

 従って、ここで重要なのは、日本がミサイル防衛構想に疑念を抱くなら、それに対抗する代替案を考案できるかどうかである。北東アジアの不安定要因が戦域ミサイル防衛を正当化しているとするなら、北東アジアの地域信頼醸成を構築すれば戦域ミサイル防衛のトーンは下がる。新しい日本外交のあり方を世界に示すためにも田中外相のパワーが期待される。

 ミサイル防衛構想を全面的に否定するのではなく、米国とのミサイル防衛の協議と同時並行的に北東アジアの平和と安定のための協議が不可欠である。ミサイル防衛の代替案として北東アジアの発展のグランドデザインを作成する。それも米国が納得する北東アジアのグランドデザインを明確にすれば、ミサイル防衛に反対する中国、ロシア、EUの支持も得られるだろう。

 では、北東アジアのグランドデザインとは、どのような戦略思考なのであろうか。地球上で唯一冷戦構造が残る北東アジアにおいて、中国、ロシア、米国、日本、EUの大国が関与を深め、冷戦の最終段階としての複雑な国際関係が渦巻いている。北東アジアは発展の可能性と紛争の可能性の両方を秘めており、優れたグランドデザインを描くことによりラストフロンティアとしてEUに匹敵するだけの経済圏になりうる。

 90年代初頭より日本では環日本海交流の重要性が認識され、多くの国際会議が開催され、また物流の面でも具体的な成果が生み出されてきた。しかし、これらの活動は日本、それも日本海側を中心とした局地的な活動である。EU諸国と北朝鮮との国交正常化に見られるように、北東アジアの問題はもはや局地的問題でないと考えると、北東アジア諸国、米国、EU、国連機関を包括した大きな構想、すなわちグランドデザインが求められる。

 グランドデザインとは、北東アジアの歴史、文化、安全保障、国際関係、インフラ整備、金融等を総合的にまとめた空間開発計画である。物流や投資等のそれぞれのセクターごとに研究が進められているが、北東アジアの開発に今、必要とされているのは北東アジア諸国のみならず世界が納得する簡潔なグランドデザインを描くことにあるだろう。ミサイル防衛の代替案として北東アジアのグランドデザインを世界に投げかける時期が到来している。日本から世界に発信するのが理想だが。

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