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アメリカ地球温暖化戦略−日本の選択
2001年05月20日(日)
萬晩報通信員 園田 義明

 ■持続可能な発展のための世界経済人会議
  ─World Business Council for Sustainable Development─WBCSD─

 ほとんど日本では報道されなかったが、昨年11月に東京で「持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)」の第6回総会が開催された。WBCSDは持続可能な成長への産業界の貢献を目的に95年に発足し、現在世界各国の約150社の企業トップで構成されている。現在デュポンのチャールズ・ホリデイCEOが会長を務め、3人の副議長の一人にはトヨタ自動車の豊田章一郎名誉会長が就いている。

 日本企業では旭硝子、デンソー、日立化成、日本原子力発電、鹿島建設、関西電力、キッコーマン、三菱グループ、三井物産、三井化学、NTT、日産自動車、セイコー、ソニー、太平洋セメント、帝人、東京電力、東レ、トヨタ自動車、安田火災が参加している。

 現在GMとトヨタは、このWBCSDの賛助のもとで持続的モビリティのための民間プロジェクトに着手している。このプロジェクトは、燃料電池自動車推進システムの開発、燃料電池用燃料およびインフラの開発、燃料改質技術の開発、燃料電池の研究開発、水素吸蔵材の研究開発が含まれている。特に最近では、短中期的燃料としてガソリンに似た属性を持つクリーン・ハイドロカーボン・フュエルに着目し共同開発に取り組んでいる。

 このWBCSDには、エンジニアリング大手ABB(アセア・ブラウン・ボベリ)、ダイヤモンドのデ・ビアスを買収したゴールド、「プラチナ」を支配しするアングロ・アメリカン、銅・石炭・ウランのリオ・ティント、ドイツ化学大手BASF、バイエル等エネルギー企業が集結しているところに特徴がある。

 この欧米側メンバー企業を見ると、ロックフェラーグループ企業が極めて少なく、ロスチャイルド、モルガン系企業が多くを占めている。J・P・モルガン・チェース誕生によりモルガン系企業が今後離散していくことも十分予測される。なぜなら異なる文化を有した金融資本と産業資本の融合には、過去失敗例が数多く残されており、アメリカ内部での産業界の分裂にも繋がる要因ともなりえる。

 特に一部NGOからWBCSDも攻撃対象にされることもあるが、相互依存関係からグリーンピースやWWFは、WBCSDとの衝突は回避するだろう。彼らのスポンサーが集結しているからである。これは、グリーンピースが上位100社からオイルカンパニーに絞ったことにも関連している。そして重要な点は、巨大メディアもこの戦列に加わる可能性も無視できない。

 ■小泉政権の所信表明演説

 小泉純一郎首相の5月7日に行われた所信表明演説を振り返ってみよう。マスコミ各社がどういうわけか低公害車ばかりを報道していたが、まったくセンスを疑いたくなる。

 ─(以下所信表明演説)─

 私は、21世紀に生きる子孫へ、恵み豊かな環境を確実に引き継ぎ、自然との共生が可能となる社会を実現したいと思います。

 おいしい水、きれいな空気、安全な食べ物、心休まる住居、美しい自然の姿などは、我々が望む生活です。自然と共生するための努力を、新たな成長要因に転換し、質の高い経済社会を実現してまいります。このため、『環境の制約を克服する科学技術を、開発・普及したい』と思います。

 環境問題への取組は、まず身近なことから始めるという姿勢が大事です。政府は、原則として全ての公用車を低公害車に切り替えてまいります。

『地球温暖化問題については、2002年までの京都議定書発効を目指して、最大限努力します。』また、循環型社会の構築に向け、廃棄物の発生抑制、再生利用の促進、不法投棄の防止等に取り組みます。さらに、廃棄物を大幅に低減するために、私は、ゴミゼロ作戦を提唱します。例えば、大量のゴミの廃棄で処理の限界に至っている大都市圏を、新しいゴミゼロ型の都市に再構築する構想について、具体的検討を行います。

 ■実行─ソニーの挑戦

 米世論調査会社ハリス・インタラクティブが、5月3日にまとめた企業の人気ブランド調査で、フォード(2位)、GE(3位)、トヨタ(4位)、GM(5位)をおさえてソニーが2年連続で1位となった。

 ソニーは、今年2月のビベンディ・ユニバーサルとのインターネットでの音楽著作権サービス「デュエット」の合弁事業設立に続いて、世界3位のシェアをもつエリクソン(スウェーデン)と携帯電話事業での統合を発表する。

 このソニーの欧州戦略は、日本企業の中でも際だっている。この戦略立案を支える部隊は、世界的にも数少ないトップエリートの社外取締役に支えられた取締役会である。出井伸之会長自身もエレクトロラックス(スウェーデン)、GMに続いて食品・飲料大手ネスレ(スイス)の取締役会に新たに就任する。また、森尾稔副会長も世界最大の米半導体製造装置メーカー、アプライド・マテリアルズと沖電気工業の社外取締役に就任する。

 そして4月27日の取締役会で、スイスのエンジニアリング大手、アセア・ブラウン・ボベリ(ABB)の前社長兼最高経営責任者(CEO)のヨーラン・リンダール氏(56)を社外取締役に起用することを決める。

 このヨーラン・リンダール元CEOもデュポンとそしてエリクソンの社外取締役であり、ソロモン・スミス・バーニー・インターナショナル(米)の国際諮問委員会のメンバーである。今回のソニー・エリクソン事業統合の背景には、この取締役兼任のネットワークが有効に機能したようだ。なおABBの取締役会には、昨年までラムズフェルド現国防長官(ギリアド・サイエンス会長、アミリン製薬社外取締役、サロモン・スミス・バーニー・インターナショナル顧問会議議長兼任)やピーター・サザーランドWTO元事務局長(現ゴールドマン・サックス・インターナショナル会長、BPアモコ元会長)も就任していたが、サザーランドWTO元事務局長もエリクソンの社外取締役であった。

 さてこのアセア・ブラウン・ボベリ(ABB)は、卓越した組織戦略を行うグローバル企業としても有名であるが、世界約140ヶ国に1,000社のグループ会社と約22万人の従業員を擁しており、スイス本社は135人だけで運営されている。主な業務分野は、発電所、電力転送、電力配布、輸送、環境および産業分野の制御である。昨年、原子力部門を英核燃料会社(BNFL)に売却し、現在は、風力、マイクロガスタービン、燃料電池等の代替エネルギー開発に取り組んでおり、小規模分散型電源への移行を進めている。

 また環境分野での欧州内のリーダー的存在であり、「持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)」の中核を担っている。

 さて5月13日付け日経新聞によれば、ソニーは2001年度中にアメリカでリサイクル事業に着手するようだ。パソコン販売が減速、製品価格や性能、サービス面で各社の差が縮小する中、海外でも環境関連の規制強化をにらんで下取り・再生利用まで一貫した事業基盤を構築し、買い替え需要を取り込むのが狙いである。

 大量生産、大量廃棄社会の象徴であったアメリカン・ウェイ・オブ・ライフが、永遠に続くはずがないことは世界共通の認識である。

 小泉政権の所信表明演説にある『環境の制約を克服する科学技術を、開発・普及し』21世紀の主役を担うべく行動を開始した、したたかなる企業の姿がここにある。(つづく)

参考・引用
ガーディアン、BBC、英エコノミスト、ロイター他海外メディア、
日本経済新聞、時事通信、共同通信、産経新聞、毎日新聞、朝日新
聞、読売新聞、NHK他日本メディア

World Business Council for Sustainable Development -WBCSDment
http://www.wbcsd.ch/
List of Members
http://www.wbcsd.ch/memlist.htm#top

 園田 義明さんにメールはyoshigarden@mx4.ttcn.ne.jp

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