■日米温暖化予測
4月13日、気象庁がスーパーコンピューターで予測した「地球温暖化予測」を公表する。大気中の二酸化炭素(CO2)の濃度がこのまま年1%ずつ増加した場合、70年後には濃度が2倍となり、日本の冬場の平均気温は、ほぼ全地域で2−3度上昇するという。
気象庁は、これまでに地球全体の温暖化予測を発表してきたが、今回初めて日本列島周辺に対象を絞り込んだ。
同じ日、今度はアメリカで米海洋大気局(NOAA)とカリフォルニア大学スクリップス海洋研究所のグループが、温暖化ガスと地球の温度上昇を科学的に結びつける研究成果を米科学誌サイエンスに発表した。
研究グループは複数のコンピューター計算モデルを使い、人間の工業活動や生活に伴って発生する温暖化ガスなどが海水温を上昇させていることを示し、「温暖化ガスを出し続ければ海が蓄えきれなくなり、大気中の濃度が急速に高まって気象などに大きな影響を及ぼす可能性がある」と警告している。
温暖化に疑いの目を向ける研究者らは、「計算モデルをどこまで信頼していいのか疑問だ」などと反論している。今アメリカ国内でも温暖化をめぐって政治家、財界人、科学者らがふたつに分かれつつあるようだ。
■「原子力発電」ビームの波紋
離脱表明直後にアメリカから発信された『「原子力発電」ビーム』は、予測通り日本政府を大きく揺さぶることになる。
EU側は、4月11日に気候変動枠組み条約第6回締約国会議(COP6)のプロンク議長(オランダ環境相)が、各国政府に新提案を示した。この中で、「原子力発電は二酸化炭素をほとんど出さないが、決してクリーンなエネルギーとはいえない。」として、日本とアメリカが求めてきた、先進国が資金を出して途上国で行う二酸化炭素の削減事業の対象から、原子力発電所の建設を除外していたことが明らかになる。意外にも原発におけるEU側の結束は強いようだ。
実は4月9日と10日に欧州連合(EU)代表団の一員としてラーション・スウェーデン環境相が来日する。京都議定書への支持を取り付けるためロシア、イラン、中国を回っており、その最終地が京都議定書の議長国日本であった。
河野外相は9日の会談で「米国の参加は地球環境にとって極めて大きなインパクトを与える。米国が参加した方がはるかに環境を守ることになる」と述べる。
これに対し、EU議長国スウェーデンのラーション環境相は、前日8日のチェイニー副大統領の「京都議定書はブッシュ政権が発足する以前に、死文化していた。我々はアメリカが議定書に縛られないことを明確にしただけだ。」の発言に触れ、「1カ国で多国間協定を一方的に死文化したと宣言することは許されない」とアメリカを批判し、「たとえアメリカが参加しなくても2002年の批准を決意している」とはっきりと明言した。
4月9日には、森首相や主要閣僚からの発言も相次ぐ。
◆京都議定書、米への働き掛け粘り強く=森首相
◆米国に議定書支持求める=福田官房長官
◆環境対策、米の参加は不可欠=広瀬経済産業次官
そして4月10日、福田官房長官は午前の閣僚懇談会で、「環境、農水、経済産業、外務各省が中心となり、政府が一体となって努力を尽くすようお願いしたい」と述べ、米国に再考を促すよう関係閣僚の協力を呼び掛けた。
結局日本政府は、米国抜きでの対処について、立場を最後まで明確にできなかった。
4月10日に行われたラーション環境相らの日本記者クラブで会見でも落胆の表情がうかがえる。そして、4月11日のプロンク議長の新提案を迎えるのである。
おそらくこの2001年4月10日は、21世紀の日本にとって極めて重大な日であったはずだ。
この新提案を受けて日本では、激震が走る。4月12日、温暖化対策に関する小委員会で、環境省中央環境審議会の森嶌昭夫会長が、日本政府の対応を批判し「日本政府は、アメリカが新しい提案を出してくるのを待っているが、京都議定書の大幅な見直しを求められたらどうするつもりなのか、いつも判断が後手にまわる。」と語り、「たとえアメリカが批准しなくても日本は批准するという覚悟を示して、アメリカが国際社会の批判を浴びて批准せざるをえない状況に追い込むべきだ。」と締めくくった。
NHKニュースや新聞記事では一切触れられていないが、森嶌昭夫会長は今年1月に原子力委員会委員に新任されたばかりで、2004年まで任期を考えれば批判の理由も理解しやすい。
特に与党自民党は、同じ日に開いたエネルギー総合政策小委員会で、今後のエネルギー政策についての提言と、法制化を目指しているエネルギー政策基本法の要綱をまとめたが、供給信頼性確保と環境への適合をエネルギー政策の基本と位置付け、原子力発電、使用済み燃料再処理事業の「国策としての推進」を再確認している。
■新たな展開
アメリカでは、有力シンクタンクの外交問題評議会(CFR)が動き始めた。CFRは、ジェームス・べーカー設立のライス大学ベーカー研究所とともにスポンサーとなって、エネルギーの供給拡大や在庫確保を急ぐべきだとするブッシュ大統領への提言を行う。
この提言は、エンロンのケネス・レイ会長を始め、燃料電池のバラード社、シェブロン、BPアモコの経営陣や大学研究者らによる専門委員会がまとめたものだ。
米国は深刻なエネルギー危機に直面しているとして、アラスカやロッキー山脈沿いの自然保護地域などで石油、天然ガスの生産を増やすとともに、精製施設やパイプライン網などインフラ整備を急ぐ必要があるとし、これまでのブッシュ政権への影響力を見せつけた。
川口順子環境相は、4月13日、プロンク議長が示した京都議定書の新提案について、「会合をまとめていく立場の人間としてとるべき進め方だったのか非常に疑問をもっている。あの中身なら出すべきではなかった」と温室効果ガスの排出量取引を中心に強く批判した。
鉾先が徐々に日本へと向けられている。
長く続いてきたアメリカ単独覇権構造が大きく揺らぎ初めているようだ。EUが国連を味方につけ途上国をも巻き込みながら着実に覇権構築に向けて動き始めた。そのキーワードは、環境である。
このままでは21世紀の日本は、「古都」として名を残すだけになりかねない。
参考・引用
ガーディアン、BBC、英エコノミスト、ロイター他海外メディア、日本経済新聞、時事通信、共同通信、NHK他日本メディア
□気象庁
http://www.kishou.go.jp/
□Studies Tie Rise in Ocean Heat to Greenhouse Gases
http://www.nytimes.com/2001/04/13/science/13CLIM.html
□the Council on Foreign Relation
http://www.cfr.org/p/
Strategic Energy Policy Challenges for the 21st Century
http://www.cfr.org/p/pubs/Energy_TaskForce.html
The Collapse of the Kyoto Protocol and the Struggle to Slow Global Warming
http://www.cfr.org/p/resource.cgi?pub!3929
園田さんにメールは mailto:yoshigarden@mx4.ttcn.ne.jp
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