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1ドル=500ピリカの北海道連邦国

2000年10月28日(土)
萬晩報主宰 伴 武澄

 近くの世田谷文学館で「北杜夫展」を開催中である。開館5周年の記念展覧で、世田谷在住の北杜夫氏が選ばれた。2Fには「マブセ共和国」がある。正式国名は「マンボウ・リューベック・セタガヤ・マブセ共和国」である。1981年、畑正憲氏の「ムツゴロウ王国」に触発されて自宅に建国したから今年は建国20周年にあたる。いまは「大使館」がその2Fにある。

 国民は3人で、北杜夫氏とその家族だけ。フクロウをあしらった国旗があり、通貨は「マブセ」という。文学館の入場券の半券が「1万マブセ」の紙幣になっている。文化事業として星新一氏や遠藤周作氏に文華勲章を授与したこともあるそうだ。文学館を訪れた当日、北さんみずから国歌を独唱して、喝采を浴びた。

 北杜夫氏の作品は「白きたおやかな峰」という作品しか読んでいないから「マブセ共和国」については初めて知った。これはやられたと思ったのは筆者が5年前、友人と考えた北海道連邦国の国旗のモチーフもフクロウだったからである。

 以下は当時書いた「北海道が独立したら」というコラムをよみやすくリライトしたものである。


   しんしんと冷え込む2月下旬の夜、若い農水省の役人とビールを傾けていた。省内ではなかなか天下国家を語るチャンスがないと嘆く人だから、当然、日本国のあり方に話が及ぶ。空の缶ビールが10本も並んだころ、彼は突如としてひらめいた。

「国を出て、国を作ればいいんだよ。そうしたら日本の規制から逃れられる」
「自治体の独立だな」
「道州制なんて議論があるが、規制緩和ひとつできない政府がそんな大胆なことできるはずがない。万一やっても何10年かかるかわからない」

 1ドル=100円という円高が続けば、農業どころかハイテク産業だって崩壊しかねない。ビールのピッチが上がり、1ドル=500円ぐらいの為替だと、一人当たりGNPは5000ドル前後となる。アジアの中進国以下の水準だが、「教育水準が高くて日本語が通じる投資国」として売り出せば、NIES諸国より有利な地位になる。農業だって国際的競争力を回復できる。国からの補助金は切れるが、インセンティブがあれば投資はある程度、外国に依存できる。

 まず日本国憲法は武力の行使を認めていないし、知事の要請がないと自衛隊は出動できないから一方的独立をしても自衛隊は何もできない、簡単な住民投票で独立できそうだ」という点で一致した。アメリカも英国の規制から逃れるため独立した。日本の徳川時代の諸藩は半独立状態で独自の通貨を持っていたり軍隊を持っていた。そこでどこが一番独立しやすいか考えた。彼はつぶやいた。

「北海道だな」

 経済規模としても適当で道路などインフラ整備が比較的進んでいる。ハブの役割を果たせる24時間体制の滑走路4000メートル空港の存在は大きい。農業も本土のように反当たりなんてけちな単位を持ち出さなくて済む。

 室蘭に高炉が復活し、紙パルプ産業どころか、炭鉱も復活するかもしれない。ビールがなくなって水割りに移ったころ、北海道国の未来は輝きはじめ、具体的国家作りに入った。政体は大統領制を中心とした連邦国家とすることに決まった。ほかの本土の自治体が参加しやすいからである。輸入リンゴと競争したければ青森県だって参加できる。秋田県が「あきたこまち」の秋田県も連邦政府は歓迎する。

 北海道はアメリカ同様本土で食えなくなった人々が移民したところ。首都は札幌でなく、中心の旭川に置き、札幌は経済の中心として残ればいい。最高裁は帯広、議会は函館が候補地として上った。三権分立だ。

 国語について彼は当然ながら日本語を主張した。国旗はアイヌの神様である「ふくろう」をあしらう。国歌は札幌オリンピックの歌となったトワエ・モアの「虹と雪のバラード」。僕たちは18世紀後半のワシントンやジェファーソンのように国の将来を語り続けた。

 通貨名だけは決まった。「ピリカ」。美しいという意味のアイヌ語だ。。大切なのは通貨の切り下げだけだ。切り下げなくして独立のメリットはまったくない。産業の競争力を回復できないからだ。僕が口火を切った。

「1ドル=300ピリカ程度だろうか」
「そんなに北海道経済が強いはずがない。貿易黒字のもとになるハイテクや自動車なんてなんいだから」
「それもそうだ。そうすると1ドル=500ピリカぐらいかな」
「そんなもんだろう」

 果てしない議論が続き、やがて東の空を白ずんできた。そしてはっと、目が覚めたら自宅のベットに横たわっていた。


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