日本はこれまで「単一民族」を理由に外国人の労働を厳しく規制してきた先進国としてはまれな国だった。そんな日本でようやく外国人に労働市場を開放する議論が行われているのに、今回の総選挙の争点になっていないのはなぜだろうと考えてきた。
萬晩報はこれまで外国人労働問題に触れたコラムをいくつか書いてきた。もちろん開国の立場に立ったものである。折りよく萬晩報の編集者として初めて取材を受け、頭の中でいくつかの問題が整理されてきた。忘れないうちの報告しておきたい。
●労働力不足から少子化へ様変わり
10年前、バブルの絶頂期に産業界から「労働力不足」を背景とした「開国論議」が巻き起こった。特に3Kといわれた職場で働く若者がいなくなり、中小企業のオーナーを中心に政治を突き上げる圧力が高まった。論壇では開国派の石川好氏と反対派の西尾幹二氏の対決が話題となった。
今回の議論ではかつてない高失業率のもとで「少子化」が開国論を後押しする背景となっている。中長期的な労働力不足という点では10年前の議論と同じであるが、少子化がもたらす年金などの社会保障の負担まで論議されているから、ことは単純ではない。前回「労働力不足で日本経済の成長が止まる」危機が懸念されたことを思い起こすと、様変わりの感がある。
●100万人を超える海外居住日本人
インタビューでまず強調したことは、日本人の海外進出である。外務省の統計では79万人の日本人が海外の在外公館に在留届けをしているそうだが、届けていない人や不法滞在を含めれば、100万人を超える日本人が外国でお世話になっているはずである。相互主義として、それと同じ程度の外国人は義務として受け入れる必要があるということだ。モノの貿易はともかくヒトまでもが出超では先進国として納まりがつかない。
次いで、日本が貧しかった時代にアメリカやドイツに向けて研修を名目にした労働力輸出があった。カリフォルニアへは農業青年の短期派米事業。ルールには炭鉱技術習得事業というものがあった。戦後まもなくのことである。一攫千金を狙って海外に渡った青年たちも少なくなかった。動機は真面目でも、結果的には多くが当時の日本の所得水準からみて大金を手にしたことは間違いない。
お金のことはともかく、数年間の滞在だったが、人との交流や労働という経験を通じてアメリカやドイツの物の考え方や生活習慣の多くを学んだに違いない。もちろん差別にも遭遇しただろうが、人情に触れることも少なくなかったはずである。そして、そうした話題は帰国後、彼らの口を通じてさらに多くの日本人に伝わった。
文化交流は学術や芸術の分野だけではない。日々の仕事や生活の触れ合いの中にも交流がある。そんな視点も忘れてはならないのではないかと思う。
●難民すら拒否してきた日本
日本は戦前、アジアから多くの政治亡命者を保護した。中国やインドの革命家もいたし、ヨーロッパで迫害されたユダヤ人もいた。列強の仲間入りを目指してアジアへの政治的支配力を強める一方で、革命家たちのラスト・リゾートでもあったことは矛盾でない。だが主権在民となった戦後の日本は政治亡命はおろか難民の受け入れをも拒否するわがままを通してきた。
貧しかった時代はそれでも済んだが、もうそんな日本は許されない。「国土が狭い」「単一民族で日本語というバリアがある」「職業差別や賃金差別が生まれる」。そんな不都合は外国人が来なくても昔からこの日本に存在することである。外国人にとって不都合なことは日本人にとっても不都合であり、日本に行きたいという外国人にとってはよけいなお世話なのである。
日本の労働市場開放策としては「相互主義枠」「過去のお世話になった枠」の加えて、先進国としての「義務枠」を考えたい。おおざっぱにいえば、150万人程度の外国人が常時、日本で学んだり、働いたりしている姿が自然なのだろうと思う。
●お金を介在した国際貢献時代の終わり
国際都市というのは観光や会議で外国人が集まるところではない。ニューヨークやロンドン、香港といった都市は、肌や髪の毛の色の違う人々が違和感なく暮らせるところが国際都市たるゆえんなのである。日本にもそんな都市が二つや三つあってもおかしくない。
日本に来るからにはもちろん日本語を使ってもらう。外資系企業のトップは日本語なしでも暮らせるだろうが、3Kで働く場合にはそうはいかない。日本語と日本の文化にどっぷり浸かってもらう。日本に来て親日になってもらう必要はない。しばらく居れば自然に知日派になる。いい面も悪い面もみてもらえばいい。差別だって起こりうる。肩の力を抜けばいい。
一度開国すれば、分かることだろうが、20年後、30年後にはアジア各地で日本語を話し、ジャパニーズ・ウエイ・オブ・ライフを理解する人々が数多く見出されるはずだし、自らを特殊だと考える日本人もこの国土からいなくなるはずだ。外に向かってお金をばらまく国際貢献の時代は終わった。
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