HAB Research & Brothers


加速する住宅用太陽光発電の普及

2000年04月28日(金)
雨漏り実験室の「チャ」



 新聞などでは、太陽光発電は発電単価が高く当分普及しそうにないという論調が多い。

 確かに、去年の年初ぐらいまでは太陽光発電関連の業界内でもそのような雰囲気があったようだが、この1年ほどでその状況は急変した。日本の太陽電池の1999年の生産量は約8.5万kW(世界の42%)で前年比72%増、99年度の生産額(見込み額)は573億円で前年比の56%%増と急激に市場が成長している。

 ブームと言われるデジタルカメラよりも成長の割合は大きい。生産額の573億円というのは太陽電池の部品としての額で、太陽光発電システム全体としてはその1.5倍以上の規模があり、ほぼ1000億円産業である。

 [99年の生産量] http://www.kc-solar.co.jp/frames/menu8.html
 [99年度の生産額] http://www.oitda.or.jp/sales99-j.html

 この産業の急成長を支えているのは住宅の屋根を使って発電する住宅用太陽光発電の増加である。政府の行っている導入補助には99年度は前年度の倍以上の約18,000件の申し込みがあったという。太陽光発電システムを導入するのは新築時が多く、すでに新築住宅の100件に1件は太陽光発電付の家を建てていることになる。各太陽電池メーカーは5年後に新築の2割は太陽光発電付きの家を建てると予想し工場建設などへの投資を活発化させる経営方針を打ち出している。

 三洋電機 http://www.sanyo.co.jp/koho/hypertext4/0003news-j/0331-1.html
 シャープ http://www.sharp.co.jp/sc/gaiyou/kaiken/kaiken2.html#3
 鐘淵化学 http://www.kaneka.co.jp/news/n991029.html
 (他メーカーも新聞などで投資計画を発表)

 マスコミは太陽光発電にそれほど注目しているわけではないのに、なぜこれほど太陽光発電の市場、特に住宅用太陽光発電が急成長しているのだろうか?

 住宅用太陽光発電システムの平均価格は前年に比べて1割ぐらい下がっただけであり、政府の太陽光発電に対する補助額も前年とそれほど違いはない。住宅取得減税で住宅建設が増えたことも少しは影響があるだろうが、その増加も1割ぐらいでそれほど大きな要因ではない。

 増加した最も大きな理由は、屋根材と一体型の太陽電池が認可され販売が開始されたためである。これによって、以下のようなメリットが生まれた。

 1.景観が今までに比べて良くなった
 2.導入者にとって経済的に利益になる場合が出てきた

 つまり、自然エネルギーにそれほど思い入れの無い普通の家庭も家を建てるついでに導入する場合が出てきたために導入件数が増えたのである。

 景観のほうは、なんとか普通の人の許容範囲になってきたというところで今後まだまだ改良の余地はあると思うが、経済性は屋根材と一体化することで以前に比べて格段に改善された。

 新エネルギー財団が公表している付属機器や工事費などを加えた太陽光発電システムの価格は、去年の12月〜1月の申し込みで平均93.6万円/kWである。価格は年10万円ぐらいのペースで下がっているのでこれから導入する場合は90万円/kW以下が相場であろう。

 [価格の公表] http://www.nef.or.jp/moniter/moni11.htm

 日本の新築住宅の屋根の広さの平均は約100平方メートル。高効率の結晶タイプ(効率16%)の太陽電池なら一般的な切妻屋根(本を開いて伏せたような形)の片側(南側)全面に6kW以上の容量をつけることができる。

 屋根が東西に向いている場合は、日射量はわずかに(約13%)減るがどちらの側にも付けることができ、薄膜(アモルファス)太陽電池(効率8%)を両面に付ければ同じ6kW以上設置できる。6kWで90万円/kWなら、540万円。99年度の政府補助は約200万円なので、導入者の負担は340万円。

 メーカーによると太陽電池は20年経過しても定格の9割以上の性能ということなので、耐久性という点では普通の(10年ぐらいで塗りなおしをしなければならい)屋根材よりは優れていて、高級な屋根材と同等である。高級な屋根材の工事費を加えた価格は200万円程度であろう。

 仮にこの分を190万円として340万円からこの額を引くと実質的負担増は150万円(薄膜太陽電池を両面に付けた場合)。屋根が100平方メートル程度の二階建住宅は通常1500万円はするであろうから、家の建築費に占める割合は1割程度以下。

 結晶タイプの太陽電池の場合は、屋根の半分は従来の屋根材も用いなければならないので少し負担が増える。しかし、将来屋根を葺き替え太陽電池を下取りに出す場合、結晶タイプのほうが下取り価格は高いであろうから、全体としてどちらが得か断言はできない。

 6kWの太陽光発電システムは年約6,000kW時を発電する。一般家庭の昼の電力料金は25円/kW時程度であり、6,000kW時は15万円に相当する。家庭内で使わない場合は電力会社に売電して現金が得られるので、導入者はほぼ確実に年間約15万円の利益があることになる。10年では150万円の利益となり、導入時の負担分の利益が出ることになる。

 ローンの金利や維持費用は若干必要かもしれないがそれでも10年を少し超える程度で元を取ることができる。電力自由化によって電気料金が安くなる可能性もあるが、今のところ安くなるのは大口契約や夜間の料金で、今後家庭にも季節別・時間帯別料金(東京電力ではこの夏から開始予定のようである)などが導入されるとかえって昼(特に夏の昼)の電気料金は上がると思われる。とすると、この低金利時代に投資対象としても魅力的だろう。

 これだけの経済的な利益があるのなら、景観がもう少し向上すればメーカーの予想のように今後新築住宅の2−3割に太陽光発電システムを付けるようになるだろう。その場合の市場規模は国内だけで1兆円以上。外国にも輸出するようになるだろうからかなりの巨大産業になる。

 太陽光発電システムの産業は補助金(住宅用の政府補助予算は99年度160億円, 今年度145億円)がなくなれば産業として成り立たないのではないかという人もいるが、私はそうは思わない。補助金は、現在は急激な市場の立ち上がりのため工場の新規建設(各メーカー100億円単位)など初期投資にすべて使われている。市場が成熟すれば必要のないものであり、工場を新規に建設する必要が無くなれば価格は現在の補助金の額ぐらいは下がるだろう。

 ここまでくれば、補助がなくともいずれは産業が立ち上がると思われる。しかし、近い将来1兆円をはるかに超える規模の基幹産業になる可能性があれば政府が少しサポートを強化して産業の立ち上がるスピードを速めても構わないのではないだろうか。

 日本政府の住宅用太陽光発電の補助制度は、「太陽光発電補助事業私案」にも書いているように若干問題はあるが、新しい産業を創出しつつあるという点では大成功を収めている政策である。新規産業の創出だけでなく、これをきっかけにしてエネルギー革命が起こる可能性も大いにあり、世界的に見ても歴史に残る政策になるかもしれない。


 [私案]http://member.nifty.ne.jp/shomenif/solar9910.html
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