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台湾総統選・陳水扁勝利に思う

2000年03月19日(日)
萬晩報主宰 伴 武澄



 3月18日、台湾の総統選挙で陳水扁氏が勝利し、国民党の公認候補の連戦氏が惨敗した。いろいろな思いが去来した。萬晩報はこのところ、月・水・金を定期配信日としてきたが、きょうは「萬号外」である。

 ●台湾で途絶えた辛亥革命の血縁

 まず思いついたのが「国民党時代の終焉」という言葉だった。この日は中国にとって、辛亥革命の発火点となった1911年10月10日の武昌蜂起以来の歴史に転換点になるのだろうと漠然と考えた。

 台湾の暦で今年は「民国89年」。辛亥革命・中華民国成立から89年目という意味である。共産党は民国という年号を1949年に捨てたが、中国の一部である台湾にはずっと公式の年号だったし、大陸でも「民国」という年号は革命の起点として歴史的に重要視されてきた。

 中国が清朝の支配から脱却したのは辛亥革命によるもので、国民党はその革命の中から生まれ、中国共産党もまた同根である。国民党と共産党とは革命の異母兄弟として生まれ、「合作」と「対立」を繰り返してきた。

 だが、この日、ついに国民党による政権はなくなることが決まり、5月には民進党というまったく遺伝子の違う政権が台湾生まれることになった。

 4年前の台湾総統選挙で李登輝総統は勝利宣言の中で「中国有史以来初めて民主的に選ばれた政権」であることを強調した。だが李登輝総統の胸のなかには「国民党が銃剣から生まれた政権政党」であるとの意識は強く残っていたはずである。

 それが今回はすっかり様相が変わったのである。昨夜、中国の国務院台湾事務弁公室は「台湾の新政権の言動を見守り、両岸関係をどのような方向に導こうとするのか注視する」と比較的穏やかな調子で陳水扁政権の誕生を論評した。

 だが民進党候補の勝利は大陸の江沢民政権にとっては最悪の選択肢だったのだろうと思う。国民党は一度は大陸に覇を唱えた政権政党ではあるし、蒋介石、蒋経国父子は「中国と台湾が異なった政体である」などと考えたことはなかった。

 また海外華僑などを通じた地下水脈における国民党と共産党との非違公式な交流は戦後ずっと続いていたはずである。

 だが、民進党にはそのいずれもない。大陸と台湾は、つまり共産党と民進党は、道理的に考えてまさに大陸が嫌がる「国家対国家」の関係により近づかざるを得ない。台湾において、中国・辛亥革命の血が途絶えた日といっていいのかもしれない。

 ●野党総統誕生を育んだ李登輝

 国民党主席としての李登輝総統は総統選挙の結果について「民主政治の成熟を十分に証明できたことを喜びたい」と他人事のように論評した。

 この選挙を通じて興味深かったのは、台湾生まれでありながら国民党の党首である李登輝総統の心情と民進党の陳水扁の主張が一番近いとされたことである。陳水扁勝利を一番喜んだのが李登輝総統だったとしてもなんら不思議でない。

 民進党のもともとの綱領は「台湾独立」だった。陳水扁氏自身も過去に「台湾はすでに独立主権国家である」と語るなど心情的には「台湾独立派」といっていいのかもしれない。

 昨年7月、李登輝総統が「国と国」を提起したとき、「総統の主張は賛成だが少し挑発的で刺激的すぎる」と穏健に論評し、今回の総裁選挙では「独立宣言は国名変更はしない」ときっぱり「台独」を否定するなど大陸との関係に関してかつてほど「台湾」を全面に押し出していない。

 李登輝総統の方がよっぽど台湾独立に傾いているといってよいのかもしれない。国民党総統と民進党との対大陸政策のねじれ現象がここにある。

 だがここに忘れてはならないことがある。1980年代後半に大陸の親族訪問する「探親」を解禁したのは前総統の蒋経国氏だったということである。国民党以外の野党の結成を解禁し、戦後、ずっと続いていた戒厳令を廃止したのも蒋経国だった。

 蒋経国は父・蒋介石の後を継いで1978年に台湾総統に就任するが、その翌年アメリカが中国を承認し、それ以降、政治的に世界の孤児となる不幸に見舞われた。陳水扁氏の人生を変えた美麗島事件はまさに蒋経国時代に起きたのだが、晩年の蒋経国は台湾民主化の端緒をつくり、大陸との対話を開始したという点で歴史的に再評価されるべきであろうと考えている。

 そして蒋経国の最大の功績は、野党候補による総統誕生の土壌を育んだ李登輝をその後継者として選んだことだった。

 当然のことながら、国民党内では連戦氏の惨敗の責任を李登輝に問う声が高まっている。歴史の経綸に触れる問題だが、未来の台湾史は必ずや台湾の民主化の道を切り開いた歴史家として蒋経国と李登輝の名前が記されることになるだろう。


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