2000年3月2日、役員改選が行われた日本長期信用銀行は「新生銀行」として新しく生まれ変わることとなった。
新役員は日米エスタブリッシュメント・オールスターズとなっており、世界中のコンスピラシー・セオリー(陰謀理論)支持者の注目を集めるものとなっている。この分野からもさまざまな考察が行われる事が予測されるが、ここではあくまでも企業・政治戦略上の見地に立ちそのメカニズムに迫りたい。
注目すべきは米国インナー・サークルの頂点に立つ3人の役員就任である。
●デビッド・ロックフェラー氏の参画
筆頭はデビッド・ロックフェラー氏である。スタンダード・オイル創業3代目の誰もが認めるロックフェラー家の継承者である。ロックフェラー一族が管理する財団、基金の事実上の責任者でもある。
1969年から1980年までチェース・マンハッタン・バンクのCEOを務め、辞任後もヘンリー・キッシンジジャー氏と共に同銀行の国際諮問委員会の会長として支えている。また米外交政策立案機関として有名な外交問題評議会(CFR)議長を長く務め(現在は名誉会長)欧米主要政財界人で構成されるビルダバ−グ会議や欧米日三極委員会(TC=トライラテラルコミッション)を主催している。
民間企業の役員就任は1980年以後20年ぶりとなる。昨年から就任要請の噂は絶えなかったが、今年85歳という年齢的問題からも実現するとは考えられなかった。
またシニア・アドバイザー就任のふたりもロックフェラー氏同様にビルダバ−グ会議や欧米日三極委員会、外交問題評議会の役員を務める大物である。
元連邦準備制度理事会議長であるボルカー氏は富士銀行やトヨタ自動車のアドバイザリーボード(社外顧問会)メンバーに就任しており日本財界に以前より強いパイプを有していた。また社外取締役として参画しているネスレはヨーロッパ財界団体であるヨーロピアン・ラウンドテーブルの会長を送りだしており、欧米日にまたがる取締役兼任ネットワークのコア(中核)となっている人物である。
バーノン・E・ジョーダン,Jr.氏はAkin, Gump, Strauss, Hauer &Feldのパートナー(弁護士)として活躍しユダヤ系投資銀行のラザ−ド・フレール以外にも多数有力企業の取締役を兼任している。クリントンスキャンダルのキーパーソンとしてマスコミにも再三登場した。クリントン大統領の公私にわたる友人のひとりである。
当初ここにもうひとりの大物ロバート・ルービン前財務長官(元ゴールドマン・サックス会長)が加わる予定だったが辞退したようだ。現在共同会長を勤めるシティーグループにおいて長く会長を務めた米財界の重鎮ジョン・リード氏退任でそれどころではなかったのであろう。
●歴史的に関係が深い三菱とロックフェラー
この大物3人の起用は槙原 稔氏(三菱商事株式会社取締役会長)の要請によるものと推測される。以前より欧米日三極委員会や外交問題評議会において旧知の間柄であり1995年からのリップルウッドと三菱商事との資本関係から願いでたものと思われる。本人は演出に徹していたかったようだが八城氏に説得され就任に至ったと思われる。また日本財界人からもかなり反発されたようだが府立一中の同級生である今井敬氏を口説いたのも八城氏である。
三菱商事の社長であった藤野忠二郎氏はかってチェース・マンハッタン・バンクの国際諮問委員会に就任していたこともあり、歴史的にもロックフェラーグループと三菱グループとは比較的関係が深い。
(日本企業でもアドバイザリーボード(社外顧問会)や国際諮問委員会を設置する企業が増えているが顧問的役割にとどまっている。米国ではチェースにしろJ・P・モルガンにしろその権限は取締役会に匹敵する。アメリカン・エクスプレスなどは国際諮問委員会にキッシンジャー氏を招き対中関係強化に向けた取り組みを行っている。)
他にも米国屈指の経済学者であるマイケル・J・ボスキン/スタンフォード大学教授もクリントン政権のアドバイザーを務め次期政権入りが噂されている。
今回の引受先の選定に際し長銀再生委員会は有力投資銀行であるゴールドマン・サックスに委託したが、この担当者ユージン・アトキンソン氏はその後リップルウッドの副社長として移籍し、今回取締役に就任したJ・クリストファー・フラワーズ/エンスターグループ社副会長もゴールドマン・サックス出身である。
●新生銀行に殺到する国際金融資本
リップルウッドは他の金融機関などとともに持ち株会社「ニュー・LTCB・パートナーズ」(オランダ)を設立。この会社を通じて1200億円を出資して「新生長銀」をこの持ち株会社の100%子会社にする。
出資する金融機関には米証券最大手メリルリンチやモルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター、ペイン・ウエバー、GEキャピタル、シティートラベラーズグループ、メロンバンクとABNアムロ(蘭)、ドイツ銀行、ロスチャイルド銀行(英)などである。
再建後はいずれかの金融機関との合併もあり得るが今のところシティー・グループとチェ−スグループと東京三菱銀行あたりが一歩リードしている。当然のことながらそのアドバイザーの選択に困る事はなさそうだ。
いずれにせよ再建に向けては八城政基氏の手腕にかかっている。「日本企業初の専門的(プロフェッショナル)経営者」としてこれまでの経験がどう生かされるか世界の注目が集まるだろう。
また公的資金投入額は4兆円に達しており、日本国民に対してもっとディスクロージャーを徹底する努力は必要ではないだろうか。樋口廣太郎氏の屈託のない解説を期待したい。
さてここまでの内容だけで先の3人が登場するわけがない。21世紀に向けた国家レベルの再編統合の姿が見隠れしている。米日合併構想が果たして実現するのか見物である。
東海村臨界事故による原子力政策の事実上の崩壊とアラビア石油の破談によるエネルギー政策の抜本的な見直しが迫られ、会計基準の世界的決定権限を握っている国際会計基準委員会(IASA)の指名委員会からもはずされている。IMF専務理事等は全く世界から相手にされていない。社会的にも相次ぐ公職者の不祥事が連日報道されまさに現在の日本は危機的な状況におちいっている。
「アイデンティティーなるものは勝者にのみ与えられる」世界の常識にいまだ気付いていない人がここにきて増殖している。このままでは対等ではなく吸収統合される日も近いような気がするのは私だけだろうか。
『新生銀行新役員一覧』
(いずれもこれまでに就任した実績があることを重視しており、現時 点でのものではないことをご了承下さい)
【取締役】
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経 歴
|
Bilderberg
Group
|
Trilateral
Commission
|
Council on
Foreign Relations
|
八城政基会長兼社長 |
元エッソ石油社長、元シティ コープ在日代表 |
× |
○ |
○ |
槙原 稔 |
三菱商事会長、IBM取締役 |
× |
◎ |
○ |
樋口廣太郎 |
アサヒビール名誉会長、経済戦略会議議長 |
× |
× |
× |
青木 昭 |
元日銀理事 |
× |
× |
× |
今井 敬 |
新日鉄会長、経団連会長 |
× |
× |
× |
森 秀文専務 |
前弊行副頭取 |
× |
× |
× |
山本輝明常務 |
前弊行参与 |
× |
× |
× |
ティモシー・コリンズ |
リップルウッドCEO |
× |
× |
× |
C・フラワーズ |
エンスターグループ副会長 |
× |
× |
× |
マイケル・ボスキン |
スタンフォード大学教授 |
× |
○ |
○ |
小川信明 |
弁護士 |
× |
× |
× |
ドナルド・マローン |
ペインウエバー会長 |
× |
× |
× |
マーティン・マックギン |
メロン銀行会長 |
× |
× |
× |
D・ロックフェラー |
元チェース・マンハッタン銀行会長 |
◎ |
◎ |
◎ |
シニア・アドバイザー |
|
|
|
|
ポール・ボルカー |
元FRB議長 |
◎ |
◎ |
◎ |
バーノン・ジョーダン |
ラザード・フレール社長 |
◎ |
× |
○ |